どこに住む? どう暮らす? 心豊かな時が流れる 「つぎのくらし」の見つけ方
| 【今回、登場するのは…】うだまさしさん
- profile - 木工作家。小学生の頃から図工の時間が好き。高校と専門学校でデザインを学び、大道具制作会社や家具工房を経て「monom(モノム)」をスタート。工房とギャラリー併設の住居で、器やトレー、ランプなど木工作品を制作している |
“山の暮らしの良さを感じて”
一枚の無垢板を前にして、そこから生まれる暮らしに思いを馳せる。「この細長い木には、チーズとバゲットを載せたらいいかもしれない」。木工作家のうだまさしさんは、誰かの温かなシーンをイメージしながらノミを打ち、彫りを重ねる。だからだろうか、彼の作品はおしゃべりだ。 トレーを手にすれば “おにぎりを載せたら可愛いよ” “おまんじゅうを載せても絵になるね”なんてささやきが聞こえるよう。「作品に、生きている感じがあったら嬉しい」とうださんは話す。
クルミやクリの木から手彫りで生み出した作品は、どれも違う表情。独自の技法でつけたキラキラ、くるくるの柄が楽しい
外壁には愛着のある地元・秩父産のスギ材を採用。家を出入りするたび、遠くの山並みまで望めてすがすがしい
事務スペースの窓辺には、大きなカゴにキウイがいっぱい。「いつも季節のものをくださるご近所さんからのおすそ分けです」
“出産前に急いで探した中古一戸建て”
「結婚して子どもを授かったのを機に、家を買うことにしました。予算的に新築が難しかったので、探したのは工房付きの中古一戸建て。自分でDIYしながら住むつもりでした」 秩父の穏やかな田舎暮らしが好き。でも、以前の家はまわりが木で囲まれていて日当たりが悪かった。木は湿気が苦手だから、仕事環境としても光と風が必要。子育てを考えると広さも欲しい。イベントで都内や地方に出るとき、もう少し車のアクセスがいい場所に住みたい。
上/冬でも温かな日が入る南向きのギャラリー。下/室内窓とドアでギャラリーとつながる事務スペース。どこにいても自然換気による空気の流れが心地よい

“築年数が不明で図面もない?!”
「現地見学に行くと、道から少し上がったところに建物があって、正面も裏側も視界が開けていました。見回しながらふたりともすぐピンときて、ココ、いいねって。子どもが増えて4人暮らしになるかもしれない将来を思うと、広さも十分。これだけあれば、のびのび育てられると思いました」 うださん夫妻に、まだ見ぬ子どもたちの笑顔が見えた。「ここはギャラリーにできそう」「こっちは事務スペースにちょうどいいね」「屋根裏もおもろしく使えるかも」。会話が弾み、リアルな未来が広がった。「間取り変更をしなくても、ここなら暮らせる!」
うださんが手描きで作ってくれた図面。間取り変更は水まわりだけ、設備は一新。内装は常にアップデートしていくのがライフワークに
太い梁を活かし、和室をギャラリーへDIY。畳をはがしてスギの無垢材を張り、壁・天井を漆喰で仕上げた
“この家、私たちが受け継ごう”
隣が工務店だったのも、音が出るのはお互いさまという好条件に。長い付き合いになるかもしれない「お隣さん」へ挨拶しに行ったら、これから赤ちゃんを迎える2人を応援してくれた。自分で手直しして住むと話すと、水まわりの設備や内装の施工について相談に乗ってくれるという。 建物を見て、話を聞いて、周辺環境を確認して、さまざまな角度から彫り進めていくうちに、荒削りだけれど確かな “暮らしのカタチ” が現れた。「工房付きじゃないけれど、敷地が広いから庭の向かいに建てればいいよね。この家、私たちが受け継ごう」
事務スペースの勝手口からテラス、庭、新築した工房を眺める。家族と程よい距離感で仕事ができる環境に。風通しのいい暮らしで木の管理もしやすい
トイレ、洗面台、浴室などの設備や配管、照明の配線は専門家に任せ、壁のタイル張りや塗装はうださんが施工
作品が飾られているギャラリーの壁は、押入れを改造したもの。戸を開くと、作品収納庫になっている
“自由に作り変えられるのは自分の家だから”
その後もどこをどう使うかに迷いなく、荒削りだった住まいをDIYしながら磨き上げてきた。「ゆくゆくは、リビングの上の屋根裏を子ども部屋兼用のロフトにしたらおもしろそう。そうやって、暮らしに合わせて家を変えていきたい。いつも楽しんでいたいと思います。 物を自由に飾れるのも、作品を見せることでお客さんに作家活動を知ってもらえるのも、自分の家だから。ショールームになる家が叶えられたのは、中古を買って思うように造り替えられたからだと実感しています」
タペストリーは、アフリカ雑貨コレクションの一つ。プリミティブな柄物から受けた刺激が、うださんの感性のスパイスに
リビングの隣室は、不定期開催のギャラリー空間。普段は建具を開放して二間続きのビッグリビングに。アイアンの建具は特注品、真ん中に取り付けた年代物のくぐり戸はオークションで購入した
子連れ客は、買い物前にわが子をうだ家のリビングへ。元気いっぱいの黄之(きの)くん、実土(みと)くんが案内人
“冬は中央に集まって温かく、夏は開放して涼しく”
寒さの厳しい秩父では断熱性が気になりそうだが、「冬は中央に集まって暮らすから大丈夫」ときっぱり。LDKまわりの空間を閉め切ることで、断熱材代わりの大きな空気層が生まれる。建物の中央で生活すれば、薪ストーブに温められながら心地よく過ごすことができるのだそう。 夏は反対に各部屋の建具を開け放し、風が通り抜けて熱と湿気を逃す環境に。昔ながらの木造平屋で、昔ながらの住まい方をするからこそ、暑さ寒さと上手に付き合えることをうださんの暮らしぶりに教えられる。日本の家は「夏をむねとすべし」と説いた吉田兼好の言葉そのもの、風土と調和する暮らしだ。
リビングより数段下がった土間キッチン。夏は涼やか、冬は煮炊きやストーブで暖を取る。風通しがいいので、木のキッチンツールや器もぶら下げておけば傷まない
冬は使わない部屋を閉め切って住空間をコンパクトにし、リビングに集ってぬくぬく過ごす
“中古だから家の素顔を感じられる”
「家や土地には性格や表情があると思うんです。それを感じ取れるのが中古物件じゃないでしょうか。いいところも足りないところも垣間見えて、家の素顔を知ることができる。人と人とに相性があるように、自分と相性のいい物件かどうか感じ取ることが大事なんだと思います」 住み始めて、うださんはしみじみ思う。「家って、家族みたい」。土地も含めて、自分たちと一緒に育っていく大事なパートナーだと感じるようになったそう。「手直ししながら相手を知っていって、キレイになったね、元気になったねって喜べるんです」 家族のように大切に思う家との関係も、もしかすると先代から受け継いだ宝物なのかもしれない。
ー DATA ー 物件竣工/不明 リノベーション竣工/2016年 専有面積/不明 専有リノベーション面積/不明 家族構成/うだまさしさん(39歳)、ゆかさん(36歳)、黄之くん(6歳)、実土くん(2歳)
ーうだまさし展ー 期間:4/12(水)〜 場所:リョク 暮らしの道具 器 雑貨 〒710-0831 岡山県倉敷市田ノ上896‐3 1F
期間:5/13(土)〜 場所:acutti 〒225-0021 横浜市青葉区すすき野2-6-6 モアビル2階C号室
【 聞き手 】 樋口由香里 雑誌、書籍、広告の編集・執筆を行う。住宅に関わって20年。「住まいを考えることは暮らしを考えること」だから、この先の生き方や家族の関わりを見つめ直す機会にしてほしいと願う
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